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2008/02/27

彼らはなぜ、走るんだろう。/『風が強く吹いている』三浦しをん

風が強く吹いている◆先日行われた東京マラソン。
TV中継を見ていたら、よく知っている通りがランナーであふれているのが新鮮で、面白かったです。
東京の観光案内としてもいい番組ですよね。現在は日本国内でしか放映されていないらしいですが、ぜひ海外でも放映して東京の街をアピールしてもらいたいな。
長時間の道路封鎖や民放TV局の独占状態(あれはやりすぎだ)といった問題はありますが、新しいお祭りのひとつとして、うまい形で定着すればよいなあと思っています。

周囲では、ランナーこそいなかったけれど、「友人が走るので応援しに行った」「友人がボランティアで参加していた」という人が何人もいました。
応援に行った人などは「来年は私も絶対エントリーする!」と意気込んでいるぐらい、マラソン熱が高まっています。

◆わたしはというと、大の運動オンチで走るのもめちゃめちゃ遅く、100m走で周回遅れに近い記録を叩き出したという輝かしい過去の持ち主。
なので、当然、マラソンだの駅伝だの、やる人の気が知れん。その中継をずーーっと見て応援してる人(例:うちの父)の気も知れん。結果だけ新聞で見りゃいいじゃない! …と思っていました。つい最近までは。

今年のお正月、入院中の父の病室で一緒に箱根駅伝を見ていたら、意外と面白かったんですよね。我が母校が久しぶりに大健闘したせいもあるんですが。
長距離走って、決められた区間をただタラタラ走ればいいってもんじゃないということが、ようやく分かったんです。入念な作戦を立てた上で、ランナーがレースの状況や自分の体調を考えながら組み立てていくものなんですねぇ。 #気づくのが遅い
特に、駅伝は、一本のたすきをメンバーがつないでいくっていう精神性も日本人好みだし、意外な健闘あり思わぬ悲劇ありと、ドラマ性に富んでいる。なるほどー、だからこんなに人気あるのかー、と、ようやく納得が行った次第です。

◆さて、ここで『風が強く吹いている』(三浦しをん)ですよ。

これは、箱根駅伝を目指す若者たちの物語。
とある大学のおんぼろ寮に住む学生が、ある日、ひとりの青年の走りを見かけるところから始まります。
青年はこの春から同じ大学に入る予定で、生活費に困っており、住むところも決まっていない様子。

彼の走りを見て、「ずっと抱いていた夢をついに実現させる時が来た」そう思った学生は、彼を寮に連れて行き寮生たちに紹介します。
そして、新入りが個性豊かなメンバーに馴染んできた頃、歓迎会の席上で爆弾発言をするのです。 「この10人で、箱根駅伝に出よう」と…!

◆まったくの素人がほとんどの上、たった10人しかいない陸上部が、強豪がしのぎを削る箱根駅伝になんて出られるわけがないですよね…
でも、この夢物語には、バカバカしいと一蹴できない魅力があります。
いかにも大学生らしい生活が(少々冗長に思えるほど)のんびり、ゆったりとつづられていくのを読んでいると、季節の移り変わりに従ってどんどん愛着が湧いてきて、彼らの無謀な試みを応援したくなります。
最後の方なんて、結末は気になるけど、彼らと別れるのが寂しくて、先を読みたくない気持ちになってしまうほど。

寮生たちは、好んで苦労なんかしたくない、面白おかしく過ごしていられればそれでいいと考えるような、いかにも今時の普通の子ばかり。
しかしそんな彼らだからこそ、走ることに魅了されていき、夢に向かってひとつになっていくさまに、胸が熱くならずにはいられません。駅伝を沿道やTVの前で応援する人たちの気持ちが、少し分かるようになってくるんです。
スポーツものですが、根性や辛さ、厳しさを前面に出していないので、そういうノリを敬遠しがちな人にも抵抗なく読めるのではないでしょうか。

大学や実業団の陸上部などに取材をされて研究されたそうで、駅伝のコースや走り方についても丹念に描かれていてリアリティがあります。
わたくし、来年の箱根の時は、このお話で得た知識を利用して、箱根通ぶるつもりです!

山口晃氏の日本画ふうのカバーイラストには、10人の寮生と、文中に出てくるさまざまなシーンが精密なタッチで描き込まれています。
きめ細かくてユーモラスで、いかにもこの物語にぴったり。素敵な装丁も、すみずみまでチェックしてください。

◆走ることとともに生きてきたのに、高校陸上部の人間関係に疲れ果て、表舞台から姿を消していた走(かける)。
陸上を愛しながらも足を故障し、満たされない思いを胸に大学を卒業しようとしていたハイジ。
この二人が出会った時、ひとつの夢が生まれ、やがてその熱が周囲を巻き込んで大きく回り始めるのです。
走るって、何だろう。人はどうして、走りたいと思うんだろう。さまざまなことを自分に問いかけながら、箱根駅伝を目指してひたすら走り続ける若者たち。
たった10人の弱小陸上部のチャレンジは、奇跡を起こすことができるのでしょうか?

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